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 平成11年に、農業基本法に代えて、食料・農業・農村基本法が施行され、食糧の安定的供給の確保と農業農村のもつ公益的多面的機能の発揮が掲げられました。
 これらを実現するためには、従来の農業生産基盤の整備・拡充に加えて、国土の保全,水源の涵養,自然環境の保全,良好な景観の形成,地方文化の継承など、農業土木に期待された面も少なくありません。

 こういう動きの中で、(社)農業土木学会では、農業土木のビジョンを「新たな<水土の知>の定礎に向けて」として策定しています。そこには農業土木の対象を「水土」とし、<循環の原理>を基軸として新たな展開を図るための提言があります。

――以下、(社)農業土木学会 農業土木のビジョン(H13.12)をもとに構成 ―
 地球は“生命の星”であり、太陽光エネルギーを原動力として水や大気が循環し、その恵みを受けて生命が誕生しました。生命は<循 環の原理>によって生きているため、水と土から生まれた生命は、水と土へと再び還っていくことになります。

生物圏の循環に深く関わる水と土は、人類の生存基盤の最も基礎にあります。水と土は自然そのものではなく、循環の仕組みを増進しつつ恵みが受け入れやすいように人工物が組み込まれて基盤として形成され、また、これを維持・運営するため、社会集団や制度などが発達しました。農村地域では、このような独特の性格を持つ<水>と<土>と<人>が分かちがたく緊密に結びつき、個性豊かな「水土」が形成されてきました。

 私たちが日々見る風景、子供の頃から親しんできたふるさとの情景は、放置されあるがままの自然ではなくて、植林され、薪拾いがなされた山であり、管理された小川であり水田や畑であります。もちろん民家も存在する風景であって、まさにこれが水と土と人が織りなす循環社会「水土」なのです。

 水と土の自然の力に対しその力を知り、人間が手を加えていくことにより、循環の仕組みは増進していきます。また、人は手付かずの自然に惹かれるのではなく、こうして人の手が入った自然に郷愁や安心感を抱き愛着を持つのです。

 人の手によって介入された自然、つまり「手自然」が社会や文化を形成していきます。このすべてが「水土」であり、各土地改良区や岡山県土連の仕事は、水土を巧く機能させるために創出され、発展してきた<水土の知>を継承し、重要な一翼を担っているのです。

 近代になり水土にも水土の知にも変化のうねりが現れました。一方で西洋の近代科学の導入によって生産量、安全性、効率が格段に進歩したことは周知の事実です。しかしながら、急速な近代化の裏で、細分化された科学技術の視点が本来ひとまとまりの全体としてとらえるべき水土を見失わせる場面も出てきています。たとえば、水循環の仕組みにおいて、従来の生態系に対する配慮が不十分であったり、また、灌漑用水や排水の施設の効率性を重視するあまり、独自の文化を担った地域用水の機能が後回しにされたりしました。

 21世紀初頭に立つ私たちは、生態系の破壊、資源濫用、食糧問題など、人類の存立を脅かす地球規模の危機に直面していますが、こうした危機に対しては個別的、部分的な対応では不十分です。

 私たちは、食料生産の基本である農業とそれを育む水土を通じて、生命を律する<循環の原理>に関わってきました。この経験を活かし、率先して行動していかなければなりません。新たな<水土の知>の定礎に向けたビジョンの次のような提言に沿った行動が重要だと考えられます。

  1. 細分化されたミクロの視点から脱却し、総合的なマクロの視点に立ち、これまでに確立された水土の精神を再評価し、現代に再生することが求められています。
  2. 健全で活発な農業生産活動の継続が水土の維持に不可欠であり、農村が循環を十分発揮できるような基盤づくりを行い、国内に持続的で安定した食料生産を確立しなければなりません。
  3. 健全な循環の管理が行われる場であり、その担い手が居住する農村地域を適正に評価すべきであり、その振興が水土の経営にとっても基礎となります。
  4. 世界各地の水土の健全化のために<水土の知>を活用していく必要があります。食料需給の不安定や循環破壊が地球規模に累積することに対して、これが解決の糸口となります。

 私たちは<水土の知>が生み出した文明や文化の担い手として、生命を育む農業・農村の創造に貢献したいと考えています。